地方によって越前がに、間人がにと呼ばれるズワイガニ。説明の必要すらないが、カニ籠(エサの味がカニ味噌の風味を損なってまう)ではなく、底引き網で獲られた大型の松葉がには、食べ応えのあるぎっしりと詰まった甘い身、表現し難いほど濃厚なカニみその旨み。
同じかにでも紅ズワイガニやロシア産ズワイガニなど比較にならず、冬の味覚の王様の名をほしいままにしている。
冬の味覚の王様、境港の松葉がに
※境港水産物直売センターの店頭に並ぶ松葉がに。交渉次第で1~2割値引いてくれる
冬の味覚の王様、松葉がにのライバル探し
元魚屋として冬の味覚の王様の実力は十分に把握しているが、冬の味覚対決として、魅力的な魚がそろう冬の日本海で松葉がにに(手頃な値段で)匹敵する味覚がないか、松葉がにを買いながら考えてみた。
※当日購入し、自宅で塩茹でした松葉がに
魚屋直伝、冬の味覚の王様、松葉がにの茹で方
1.活きた状態の松葉がにを沸騰した湯の中に入れると足がとれてしまうので、動かなくなるまで水の中につけておく。
2.松葉がにが動かなくなったら水洗いして汚れを取り除く。
3.大きめの鍋に水と塩を入れて沸騰させる(塩分濃度は1.5~2%が目安)
4.お湯が沸騰したらかにの甲羅を下に向けて松葉がにを鍋に入れる。
5.松葉がにを入れたなべの湯が再沸騰したら中火にして25分前後茹でる。
6.茹で上がったら松葉がにを冷水に2~3分程つけて余熱をとる。
6の手順を行うことでカニ足の身を殻から剥いた時のパサパサ感がなくなり、より美味しく食べれる。効果ははっきり体感できるほど違うのでカニ身を豪快に食べたい時はおすすめだが、カニごと冷水につけるとカニ味噌も冷たくなってしまうので、熱々のカニ味噌ファンはお好みで。
松葉がにの実力
先ずは比較元である松葉がにの実力を再確認しておく。カニの調理方法は色々あるが、個人的にはカニ本来の旨みが楽しめる、塩茹でにして食べるのが一番好きだ。
食材を買うときは調理プロセスと完成系をイメージしながらになるが、ごまかしのきかない塩茹でにする松葉がには、素材で勝負するため最高ランクの松葉がにを調達。これはもうどうやって食べても美味しくない訳はないのだが、茹でたて熱々のカニ足にカニ味噌をのせて食べたり、
冬の味覚の王様、松葉がにのかに刺し
焼きガニや、多少手間はかかるが、伊勢海老に勝るとも劣らない甘さと、プリプリした繊維質が生み出す独特の食感が魅力のカニ刺しにしてみたり。
※カニ刺しは飲食店で食べると冷凍物を使っていることが多いのでぜひチャレンジして頂きたい。レシピサイトを参考にすれば、難易度はそれほど高くない
冬の味覚の王様、松葉がにのかに味噌豆腐
熱々の豆腐に熱々のカニ味噌をのせてカニ味噌豆腐にして食べても美味しかも?とイメージを膨らませながら買物をする(写真は夕飯時に仮説検証した内容)
冬の味覚の王様、松葉がにのかに汁
時には検証プロセスで気付きを得ることもある。忘れてはいけない、甲羅に残ったカニ汁も王様の中の王様だ。塩分が多く体に悪いのは間違いないが、熱々のカニ味噌をつつきながら飲む松葉がにの甲羅汁、言葉が出ない。
冬の味覚の王様、松葉がにのライバル探しを邪魔する「おばちゃん」
松葉がにの実力はもう十分だ。冬の味覚対決に話を戻そう。
松葉がに購入後、別のお店で松葉がにに匹敵する冬の味覚を探していると、威勢のいいおばちゃんの声が。
「お兄ちゃん、これたべてみんちゃい」
「鍋にしたら美味しいよ」
観光客に片っ端から声をかける魚屋のおばちゃん。こちらも元魚屋なので目利きには自信がある。申し訳無いが、”ばばあ”は引っ込んで欲しい。
通称”ばばあ”、優しい魚屋だと”ばばちゃん”と呼ばれるこの魚、正式名所は”タナカゲンゲ”といいい、刺身で食べると驚くほど味がしない変わった魚。鍋やお汁にすると美味しいと言われるが、冬の王者と対決するにはあまりにも荷が重い。
冬の味覚の王様、松葉がにのライバル?美味しいエビ
元同業者である元気な魚屋のおばちゃんと情報収集を兼ねた雑談を楽しみ、食材探しに戻ると、冬の味覚はカニだけではないと鬼のような顔つきでにらんでくる視線が・・・
視線の正体は甘みとしっかりとした歯ごたえから小さな伊勢海老と表現さえることもある海老山陰4大エビの猛者、”オニエビ”。これも旨い食材だ。刺身、塩焼きがおすすめ。
松葉がにのような迫力は無いが、カニのライバルと言えばエビ。とりあえず候補にいれておく。
冬の味覚の伏兵
もうひとつ、侮れないのが、旨みをたっぷり含んだ貝類。このバイ貝は個人的にはかなり好きなのだが、どうイメージしても松葉がにのライバルというよりカニを食べる合間に出てくるツマミの一つ。
冬の味覚の王様、松葉がにのライバルは身近な所に
ヒラメ、たら、赤イカ、、、その後も松葉がにのライバル探しは続いたが、”カニ味噌”という強力な武器を持つ松葉がにを相手にするにはどれも分が悪い。
カニ味噌、
カニ味噌、、
カニ味噌、、、
カニ味噌が武器?
久しぶりに一人で買いだしへ行ったので、いつも陰から支えてくれる強力なパートナーの存在を忘れていた。松葉がにの妻とも言える、親がにの存在だ。
松葉がにと比べ大きさ、価格が大きく違うこのカニはズワイガニの雌蟹。地域により”せこがに”、”せいこ”とも呼ばれ、松葉がにと同じく例年11月6日のかに解禁日から水揚げが始まる。資源保護の為、松葉がによりも禁漁期間が厳しく、11月6日から翌年の1月10日頃までしか食べれない、希少性抜群の食材だ。
冬の味覚の女王、親がにの珍味、内子と外子
親がにの魅力は最高の珍味である、内子と外子。体内にある卵巣の内子とお腹かに抱えた見た目も美しい外子。外子のプチプチとした食感と、噛めば噛むほどに広がる蟹の子特有の濃厚な旨み、外見はとびっ子に似ているが、蟹好きには似て非なる存在だ。
親がにの珍味、内子と外子、色の違い
先ずは外子の魅力から。外子の色は卵の成熟度によって色が変化する。解禁直後の親がにが抱えた外子は透き通るようなオレンジ色をしているが、時間の経過により、茶色、黒っぽい色へと変化する。(めったに食べれない為)個人的にはそれほど気にならないが、オレンジ色の卵の方がより美味しいとされているので食通の方はオレンジ色の卵を抱えた個体を選ぼう。
しょう油やポン酢を僅かに付けて食べる、親がにの外子。王者松葉がにの牙城を崩す、強力な武器だ。
冬の味覚の女王、内子の魅力
もうひとつの魅力が小さな甲羅にぎっしりと詰まった親がにの内子。歯ごたえがあり、非常に濃厚な味をしている。カニ味噌と絡んだ熱々の内子、、正直言ってつたない文章力しかない私にはこの魅力を伝えきれない。
新鮮な親がにでのみ楽しめる、僅かにレアな状態でゆで上げた外子のパワーは、同時に茹であがった冬の王者松葉がにの存在もかすんでしまう力を秘めている。
外子と内子。冬の味覚の王様、松葉がにの牙城を崩す実力を備えた食材は、期間限定で楽しめる、カニの女王だけかも知れない。