こんにちは、ハマジです。
今回はMazda3の足回りについて解説したいと思います。
新型Mazda3の話題の一つにリアサスペンションが先代アクセラの「マルチリンク」から「トーションビーム」へ変更されたことがあります。
すごく雑に言うと、1本のバーで左右輪間を接続するトーションビーム形式は、マルチリンクのような独立懸架に比べ性能やコストの面から廉価版のイメージがあります。
先代アクセラのマルチリンクからトーションビームへの変更はコストダウンと思われかねません。
なぜマツダはMazda3の足回りにイメージダウンとなり兼ねないトーションビームを選んだのか。
また、マツダはどうやってトーションビームの乗り心地のネガ(段差を乗り越えた時にドタバタと弾くような不快な振動出る)を対策したのか。
今回はMazda3が”あえて”トーションビームを採用した理由について解説したいと思います。
6世代商品群の振り返り
はじめに従来のアクセラ、6世代商品群のマルチリンクサスペンションの復習から始めたいと思います。
6世代商品群の乗り心地改善の考え方は「バネ上へ伝える力の大きさ(ピーク値)を低減させる」の元、従来のマルチリンクに対しリアサスペンションのトレーリングアーム取付位置を上方へ移動。これにより、トレーリングアームの上下軌跡に路面からの前後入力をより多く吸収させ、ブッシュへの前後入力を低減することで乗り心地を改善しました。
私がアクセラに試乗した感想としても、トーションビームを採用する同クラスの車に比べ角の立った突き上げがなく、走行安定性と乗り心地のバランスが良い車と感じました。
7世代商品群の考え方
繰り返しますが、衝撃のピークを和らげるのが6世代商品群までの考え方。
これに対しMazda3から始まる7世代商品群では、マツダがかねてから提唱する「人馬一体」を実現するため、SKYAKTIV-VEHICLEARCHITECTUREと呼ぶシャシー系の開発哲学に「人間中心」という最新の考え方が取り入られています。
「人馬一体」のクルマをより進化させるため、人間の持つ身体の能力を最大限活かせるクルマとの一体化を目指すように進化しているのです。
では、人間中心とは何か?
研究の結果、マツダでは人間の歩行とバランス保持能力に着目されたそうです。
例えば、普段歩いてるときに右足を出して、次は左足。右手と左手はこうで、、なんて歩く人はいないですよね。
人間のバランス保持能力は非常に優れており、実際には段差があっても意識することなく、まっすぐ歩けるのです。
車を運転しているときに歩行中と同じように人間が持つバランス保持能力を発揮できる状態をつくること。これがクルマの理想の状態と定義してシャーシを開発されています。
次にマツダは具体的にどう変えたのか。
車が段差を乗り越える時に伝わる衝撃はサスペンションによって緩和されます。マツダではこの衝撃が乗っている人に伝わるまでの時間にズレがあると不快(違和感)に感じることを発見。
車が段差を乗り超えた時の前輪と後輪の動きにズレがあると不快に感じるため、従来のサスペンション、シャーシ、シートそれぞれで「ピークの衝撃を和らげる」から、タイヤ、サスペンション、シャーシ、シート全体で衝撃が人間に伝わるまで時間軸で見てズレ(位相)がなく滑らかに繋がるように考え方を変えたのです。
トーションビームに変更した理由
6世代から7世代でシャーシの考え方が大きく変わったことは述べました。
次にサスペンションがマルチリンクからトーションビームに変更された理由を説明したいと思います。
6世代までのマルチリンクでは、段差を乗り越えた際、タイヤが後ろに逃げて荷重をいなす考え方で設計されているため、力の大きさのピーク値は低減できるものの、乗員に入力が伝達されるまでにズレ(位相差)が生じてしまいます。
独立懸架のマルチリンクはジャンプして着地した時のドン!と入る縦の入力をいなすのは得意でも、走行しながら段差を乗り越えた時に入る横方向からの入力に対しては、左右輪の衝撃をズレないようにするのが難しい。
そのため、左右方向がトーションビーム(ねじれ棒)で固定されたトーションビームアクスルに変更されたのです。
長くなるため割愛しますが、従来のトーションビームでは横方向の入力に負けてビームがねじれてしまう問題をマツダは広島のサプライヤー、ワイテックと共同で解決。特許出願中の新しいトーションビームで、先代比でトー剛性を14%、キャンバー剛性を50%向上させてズレ(位相差)の無い足回りを実現しています。
従来のアクセラがマルチリンクのため、トーションビームヘ格下げされたと考える人も居るかも知れませんが、マツダは「あえて」トーションビームを選択したのです。
勝手な推察と補足情報
以上はマツダの受け売りですが、トーションビームを選択した理由には位相差を無くす以外にもコスト面やスペース効率の理由もあったのでは?と推察しています。Mazda3、特にファストバックはリアタイヤからのオーバーハングが短いデザインのため、居住性やトランクスペースを確保するためコンパクトなサスペンションが求められたのは想像に難しくありません。
また7世代商品群ではMazda3以下のスモールアーキテクチャーとそれ以上のラージアーキテクチャーでFFとFRにシャーシが別れることが公表されています。Mazda3よりもコンパクトなMazda2(現行デミオ)などでもデザインと操安、そしてコストの要求レベルを満たすためにもトーションビームの開発は必須であったのでは?と(勝手に)推察しています。
Mazda3の乗り心地の評価
このようにコストダウンが目的ではなく、走行中の衝撃によるズレ(位相差)を軽減することを目的に採用されたトーションビーム。
最後に実際にMazda3を試乗した感想を述べたいと思います。
まず、サスペンション形式がどうのこうのではなく、フラットな気持ちでMazda3を運転すると、ちょっとした坂道を駆け登ったりカーブを曲がるレベルで思わず笑ってしまう程気持ち良く運転できることに驚きました。坂道を走ったのは15S、1.5リッターのガソリンエンジンでしたが、飛ばさなくても運転が楽しい!と感じることができます。
次にトーションビームのネガは無いか意地悪な確認として、お尻に集中して運転すると、垂直方向の衝撃に関しては「ドン!」という振動を比較的ダイレクトに伝えると感じました。比較に意味はありませんが、CX-8と比べてもハッキリと衝撃を伝える傾向にあります。
ただ、不思議なことに、振動は感じるのに不快ではない。むしろ不快感では6世代のアテンザやCX-8の方が大きく感じます。
コストダウンと勘違いされかねないトーションビームを”あえて”選択し、人馬一体に磨きをかけたMazda3
トーションビームは車体前側のコンプライアンスブッシュにトーやキャンバーなど、リヤタイヤの正確な位置決めと振動遮断という相反する機能が求めらるため、シンプルな反面、非常に奥が深くメーカーの技術力が問われるサスペンション形式です。
従来のトーションビームとは一線を画すMazda3の乗り味については、是非試乗して体験してみてください。
以上。